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コーナータイトル

いちどきりの母の味。

炊き込みごはん、茶碗蒸し、海苔巻き、味噌和え、筑前煮、そぼろ弁当、いんげんの肉巻き・・・思い出される母の味はたくさんある。リアルな感覚で思い出せば、何味だか分かりづらい野菜炒めや、いつも少し崩れているブリの照り焼き、ご飯のおかずには無理がある酸っぱいモズク、卵を割りいれたカレー等々、口にした者にしか甦らない「味わい」も多い。

こうした数々の「家ご飯・母ご飯」は、大人になるまでの私の命を支えてきた。それに間違いはないし感謝もしているが、母の味を伝承しているかと問われればしていない。たべるのフォーラムからの「伝えていきたいお母さんの味」という投げかけに、頭が止まってしまった。たくさんあるようで、ひとつもない感じがしたのだ。母ならではの得意料理も、伝承が使命な郷土料理も、特別記憶にないからだろうか。見よう見まねで覚えた料理も、あきらかに母の味とは違う。

明確な答がみつからないまま味の記憶を探るうち、自分でも思いがけないメニューがひょこんと頭に浮かんだ。30数年ぶりに再現したくなった母の味、それは洋風炊き込みご飯、ピラフである。

今から30数年前、ボーリングブームというものがあった。父の仕事仲間の集まり、我が家族も参加してのボーリング大会でのこと。ゲーム後の会食パーティで(フロアサイドの軽食レストランで行われた)、いままで口にしたことのないピラフというものが出された。小海老とマッシュルームと人参が入った炊き込みご飯。家で食べる和風五目ごはん(茶色い)とは違い、色からしてハイカラ。今考えれば、業務用の冷凍ものであったのだろうが、「ボーリング」「父の会社の人」「ピラフ(聞いたことのない名前)」という特別揃いの掛け合わせは、当時小学生の私にエキサイティングな「ひと時」をもたらした。

それから間もないある日、その料理は現れた。母が「洋風炊き込みご飯」を作ったのだ。小海老とマッシュルームと人参が入っていた。ゆで卵までのっていた。「コンソメとケチャップいれたよ」と言いながら炊飯器の蓋を開け、バターを混ぜ込んでいた記憶がある。母が魔法を混ぜ込んでいるように思えた。味は覚えていないが、ボーリング場のそれより美味しい、と思った感覚は鮮明にある。ふわっと湯気が芳しかった。

私は喜んだが、他の家族の賛同を得られなかったのだろう、その後食卓にはのぼらなかった。自分で再現したピラフを食べてみたら納得である。不味くはないが特別おいしくもない味。だから、この味は伝承しない。でも忘れがたい感覚の味である。エキサイティングな「時」である。

あの時、母のピラフに感動できたことを嬉しく思う。母に感謝する。命に伝わる料理の魔法を伝えていかなくちゃと思う。80歳になった母は、きっとピラフを作ったことさえ忘れているだろう。それが母の本当の魔法なのかもな

さいこ

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たべるのForum  2008年10月16日 12:00

コメント(1)

さいこさんだけではなく、わたしの周りの人何人かと話してみても
「お母さんの味を懐かしいとは思うけれど、受け継いだという感覚はない」
そう言う人がけっこう多いようですよ。
考えてみれば食の環境は、母たちの時代からものすごく変わりましたからね。

そんな変化の中でも伝えていきたい「命に伝わる料理の魔法」か。
ゲド戦記みたい。厳しいけれどなんか楽しい感じもしますね。

posted by takahash  2008年10月17日 23:33

 
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